過保護な彼に愛されすぎてます。
「うなじとか。いつも見えない部分が見えるとドキッとする。奈央ちゃん、うなじ綺麗だよね。……ねぇ、ちょっとだけ触ってもいい……」
「出てって。痴漢」
「そんな冷たい目で見ないでっ。冗談だって。冗談」
すっかりいつも通りになった郁巳くんにため息を落としながら、身体を伸ばしてふたつのグラスをキッチンの向こうにあるカウンターに置く。
「人気モデルが痴漢で捕まるなんてことないようにね」
「俺が痴漢するとしたら奈央ちゃんだけだから、大丈夫」
「へー」
「いや、本当に」
「はいはい」
軽く流して麦茶のペットボトルを冷蔵庫に戻し、パタンと扉をしめる。
「だから……」
一拍置いた郁巳くんが、冷蔵庫に片手をつく。
私を冷蔵庫と自分の身体で閉じ込めるようにした郁巳くんは、ぞくりとするほど綺麗な笑みを浮かべて私を見ていた。
今、やっと緩んだ緊張の糸が、またピンと音を立てて張る。
にこやかなのに、笑っていない瞳が言う。
「俺を見捨てて、訴えたりしないでね」
「見捨ててって……」
「俺を見捨てないでね。奈央ちゃん」
伸びてきた手に、ギュッと抱き寄せられ、郁巳くんの肩口に顔があたる。
ふわっと香るのは、郁巳くんがいつもつけている香水だ。
郁巳くんはスキンシップが異常に多いから、こうして抱き締められたりしても普段なら驚かないけど……。
「奈央ちゃんがいないと、俺、生きていけないから」
甘えと脅し、ふたつがまざりあった声色が鼓膜を震わせ、緊張が走った。
これは……依存? それとも、べつのもの――?
「俺を殺さないでね。奈央ちゃん」
背中側にある冷蔵庫も、流れる空気も冷たいのに。
服の下を、一筋の汗が伝っていた。