過保護な彼に愛されすぎてます。
six
朝の情報番組を見てからつけっぱなしになっていたテレビ。
そこから、「くそっ、きっつい……っ」と、知っている声が聞こえてきて、掃除機をかけようとしていた手を止める。
掃除のためにポニーテールにした髪が、振動で揺れた。
四角い液晶画面のなかで必死の笑みを浮かべるのは、不破郁巳。
今、人気のモデルで、ほかでもない私の幼なじみだ。
白いTシャツに膝下まで捲り上げたジーンズ姿で、自転車をこぐ郁巳くん。
サラサラした茶色い髪が、風で流れ、爽やかだなぁと思う。
長い長い坂を、自転車でどうにか上りきったあと、ガシャンと自転車ごと倒れ、草原に仰向けになる。
そして、息をきらせながら夏の青空を仰ぐ。
浮かべているのは満足そうな、こどものような笑みで……そこに不意に影が落ちる。
郁巳くんの顔の横に、サンダルを履いた足が近づき、炭酸飲料のペットボトルが差し出される。
女の子の顔を映さないのは、視聴者がそこに自分の姿を重ねやすいようにということなのかもしれない。
笑顔でペットボトルを受け取った郁巳くんは、上半身を起こしてそれをゴクゴクと喉を鳴らして飲み、そして、「飲む?」とこちらに向けてペットボトルを差し出す。
草原の中、大の字になった郁巳くんの引きの映像が流れ、そこに白字で〝この夏、たったひとつを見つけた〟の文字。
商品名が大きく出て、CMは終わる。
自然のなかで行われたというロケは、楽しかったっていつか言っていたっけなぁと思いながら、掃除機のスイッチをオンにした。