過保護な彼に愛されすぎてます。
CMの相手を務めた女の子は、まだほとんど無名のティーンズのモデルさんらしい。
『あの坂、本当きっついから奈央ちゃんは自転車押したとしても、たぶん上れないよ』
そんな失礼なことを言った郁巳くんに眉を寄せると、『だから、俺が後ろに乗せてあげるから。今度、一緒に行こうね』と楽しそうに笑っていた。
いつもどおりの、明るい郁巳くん。
そういう表情からは、怖さもなにも感じないのに。
時折感じるゾクリとしたモノの正体は、一体、なんなんだろう。
掃除機のスイッチを切ると同時に、スマホが鳴った。
見れば、液晶画面には〝お母さん〟の文字。
そういえば最近、全然顔出したり電話したりしていないなと思う。
お説教から始まるパターンかな……と、気が重たくなりながら電話に出た。
想像通り『まったく! 全然連絡してこないんだから!』と小言から始まった電話の用件はとくにないらしい。
私はひとりっこだし、お母さんも、お父さん相手だけじゃ話しがいがないのかもしれない。
ペラペラと一方的に話される。
内容は、お父さんの飲み会が多いだとか、パート先の店長がどうだとか、近所に新しくスーパーが開店しただとか。
それを、適当に聞いて相づちを打っていると、今度はインターホンが鳴った。
土曜日の午前九時。
こんな時間にくる人は、郁巳くんか宅急便くらいだ。
それでも一応、画面を確認すると予想通り郁巳くんが映ったから、スマホを耳に当てたまま、サムターンを回して鍵を開けた。
玄関を開けるなり入ってきた郁巳くんが「おはよー、奈央ちゃん……あれ、電話中?」と元気に言うから、その1/5くらいのテンションで挨拶を返してから「うん。お母さんだから平気」と答え、部屋に上げる。