過保護な彼に愛されすぎてます。
「少し痛いかもしれないけど」
細く出した水に、郁巳くんが私の手のひらを近づける。
水の勢いはすごく弱いから、ピリッと痛んだのも最初だけだった。
傷口から小さな砂なんかが入っていないかをたしかめるように、郁巳くんがじっと見るから「大丈夫だよ」と声をかける。
郁巳くんに声をかけることができて、やっと肩に入っていた力が抜けた気がした。
なんだか、ずっと張りつめていたから。
「跡にならないかな」
「おおげさだよ。そんなの、全然へいき――」
言葉が途中で切れたのは、傷口に郁巳くんが口づけたからだった。
私の手のひらに唇をつけ、水滴のついたままの傷をそっと舐められる。
その行為が、消毒の意味を持つってことはすぐにわかったし、小さいころだってよくしていたことだ。
なのに緊張が走ったのは、私を見る郁巳くんの瞳が、あまりに真っ直ぐだったから。
人気のない、静かな公園。
木の影になっている、水道。
怖いくらい、私しか見ていない瞳。
まるで、ここだけ世界から切り取られてしまったような、そんな感覚に陥って焦りからか鼓動が速くなる。
淀んだ色を含んだ眼差しがあまりに強く、背中にゾクリとした感覚が走った。
黙ったまま、何も言えないでいる私を見ていた瞳が、ふっと、少しだけ穏やかになる。
「そんなに怯えた顔して、どうしたの? もしかして俺が怖い?」
静かすぎる声で問われ……ゆっくりと首を振った。
……怖い。怖いけど、それを口にしたらいけない気がしたから。
「……ううん。なんか、血に飢えてる吸血鬼みたいに見えたの。役作り、ばっちりだね」
少しでも雰囲気を変えたくて言うと、郁巳くんはハハッと笑った。
でも、ふたりの間に流れる空気の重さは変わらない。