過保護な彼に愛されすぎてます。


「飢えてるのは本当かも。血にじゃなくて、奈央ちゃんに、だけどね」

微笑んでいるのに、優しさの感じられない瞳に捕えられ「こんなに一緒にいるんだから飢えようがないでしょ」と軽口をたたくと、「俺は足りない」とすぐさま返されてしまった。

「俺はもっと一緒に、近くにいたいと思ってるよ」

ピリピリピリピリ。
痛いのは、手のひらの傷なのか……それとも、張りつめた空気なのか。

「でも……そんなに一緒にいたら、〝いつか誰かが〟って言ってたのに……」

『そのうち、郁巳くんの外側だけじゃなくて、中まで見て好きになってくれる人が現れて、そしたら郁巳くんも寂しくなくなるよ』

そういう誰かが見つかるまで傍にいるよって約束だったのに、そんなにいつも一緒にいたら、他の誰かとなんて向き合えない。

だから言うと、郁巳くんは「あれ。まだそんなの待ってたんだ」と、意外そうな顔をして笑った。

「え、だって……」
「俺はもう、奈央ちゃんしかいらないって言わなかったっけ?」

言われたかもしれない。でも、そんなのただふざけて言ってるだけだと思ってたのに……。

郁巳くんの発言が、どこまで本気かがわからなくて「でも……」と、動揺から目を泳がせていると、「まぁ、いいけどね」と目を細められる。

「追いかけっこも楽しいし」

柔らかい表情のまま、郁巳くんがおもむろに私の手を自分の頬にあてる。

傷のついている手のひら。
そこに軽くキスをしてから、そのまま視線だけを私に向けた。

「ただ、そろそろ覚悟決めて捕まってね。俺、待つのって苦手だし、あんまり待たされると、なにするかわからないよ」

なにも、怖いことなんてないハズなのに。
まるで、手のひらの傷を人質にでもとられたような、そんな絶望感がわずかによぎっていた。




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