過保護な彼に愛されすぎてます。
咄嗟のときにカッとなってしまうところは中学のころから変わらないんだなぁと思う。
「あのとき、もし頬の腫れが引かなかったらどうしよう……って一晩考えた」
「一晩ずっと考えられてたとか、鳥肌立ちそう」
夕焼けの帰り道。
はぁ、と息をつきながら言う郁巳くんを眉を寄せ非難して……あることを思い出す。
「あのあと、相手の子、よっぽどひどくお母さんに怒られたのかもね。すごく大人しくなっちゃって、それまですれ違うたびに睨まれてたのに、そういうことなくなったし」
同時期から〝不破くんから離れろ〟とか、そういうことが書かれた手紙が靴箱に入っていることもなくなったし、あれもあの子だったんだろうか。
まぁ、今さらどうでもいいか、と片付けていると、一拍遅れて郁巳くんが「かもね」と相槌を打つ。
その間と、声のトーンに引っ掛かりを覚えて隣を見上げると、それに気付いてか、郁巳くんもこちらを向く。
夕日を背にしている郁巳くんの表情が見えにくい。
笑みを浮かべる口元から、微笑んでいるんだろなっていうのはわかるけど……キャップもかぶっているせいで、目元が見えない。
「スーパーで買い物していこうね。で、帰って夕飯」
「うん……ねぇ、郁巳くん。さっき話してた子のこと、なにか知ってるの……?」
間とか、声とか、雰囲気とか。
なんとなくそんな気がして聞くと、郁巳くんは「知らないよ」と即答したあとで「そんなことより、なに食べたい?」と私の顔を覗き込む。
郁巳くんが腰を折って顔を近づけたから、きちんと表情が見えた。
そこにはいつも通りの人懐っこい笑顔がある。
おかしな感じがしたのは、私の気のせいだったのかな、と片付けてから「パエリア」と言うと、郁巳くんが「了解」とにこりとした。