過保護な彼に愛されすぎてます。
「エアコン、25度設定になってた。ダメだよ。奈央ちゃんは冷えやすいんだから、28度とかじゃないと翌日体調崩しちゃうよ。去年もそれで夏風邪引いたの、忘れちゃった?」
注意されて、そういえば帰ってきてやたらと部屋が蒸していたから、設定温度を下げたことを思い出したけど……どうでもよかった。
「飲み会、つまんなくてさ。一次会だけ出て帰ってきた。なんか、ベタベタ触られて嫌だったし。引き留められたけど、明日大学で朝早いからって嘘ついて」
「なんで……」
「奈央ちゃん、全然メッセージ返してくれないから心配した。
家に帰ってるのはわかってたけど、もしかしたら誰かと一緒なんじゃないかと思うと気が気じゃなくてさ。今日は寝るの早かったんだね。仕事で疲れちゃった?」
にこりと目を細められたけど……私のなかには、怖いっていう感情がじわじわと生まれていた。
だって……。
「どうやって入ったの……?」
合い鍵なんて渡してない。
それなのに、どうやって……?
完全に起きたはずの頭が混乱してしまい、声がわずかに震えていた。
帰ってきてそのまま私の部屋に来たのか、Tシャツにジーンズ姿の郁巳くんが穏やかな表情で答える。
いつも外出するときにかけている黒縁の伊達眼鏡の奥の瞳が、私をじっと捕えて弧を描く。
「鍵なら開いてたよ。ちゃんと鍵しめないとダメだっていつも言ってるのに」
「ちゃんとかけたよ。確認してから寝た」
「じゃあ、奈央ちゃんの勘違いだよ。じゃなきゃ俺が入ってこられるわけない」
郁巳くんが言った言葉の後半は、本当にその通りだ。
だって、鍵が開いてなかったら、郁巳くんは部屋に入れるハズがない。
……合い鍵を勝手に作って、郁巳くんが持っていない限り。
ドクン……と嫌な音を立てた心臓にせかされるように、その疑惑を郁巳くんにぶつけようとして……でも、事実を知る覚悟がまだ決まっていなくて、言葉にならない。
〝合い鍵なら勝手に作ったよ〟って認められたって、どうしていいのかわからない。
いつも、痴漢とか変態とか平気で口にしてるけど、それとは全然違う。
はくはくと口を動かしながらもなにも言えずにいる私を見て、郁巳くんは目尻を下げる。