全てが終わりを告げる時
「もう謝らないで。

私は元々、感情が顔に出にくいの。

だから、私に非があったのよ。

あなたが気負う必要はないわ」


「いや、俺が悪かったんだ」


二人して頭を下げ、数秒経った後、どちらからともなく笑い声が零れた



「それなら、お互い様だな」


「ええ、そうね」



直後、授業終了のチャイムが鳴る


「じゃあ、俺はこれで」


そう言って、倉渕羽津摩は席を立ち、扉へと向かう


すると、何かを思い出したように踵を返し、言った



「フルネームだと堅苦しいし、言いづらいだろう?

羽津摩と呼んでくれ」


「それなら、私も輝祈で構わないわ」


私が返せば、倉───羽津摩は嬉しそうに笑う



「じゃあ、またな……輝祈」


そうして、羽津摩は保健室を出ていった



再び静まり返った部屋の中で、私は一人、くすりと笑う


私が何故、過呼吸だったのかを聞かなかったことから察するに、

彼は心は読めないが、気配りはできるようだ、と



先程まで、鮮明に見えていた過去の記憶は、いつの間にか見えなくなっていて、心もとても穏やかだった


ありがとうと、心の中でもう一度呟く



「さて……私も教室に戻らないといけないわね」


そう独り言(ゴ)ちてから、私も保健室をあとにした───




「輝祈、大丈夫?」


教室へ戻れば、未來が不安げな顔で駆け寄ってきた



「うん、もう大丈夫。

心配かけたみたいで、ごめん」


そう言う私の胸元では、指輪がほのかに熱を帯びていた
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