全てが終わりを告げる時
名前を呼ばれた彼女がこちらを振り向く


「……どうしたの?」


そう言って、首を少し傾げる彼女


そしてその顔は……



完璧な笑顔だった


その顔を見て、心臓から始まり、体の隅々まで、すぅ、と段々に冷えていくような、不気味な感覚に襲われた


自然と体が小刻みに震え始めたのが、自分でも分かる


寒さなど感じないほど、今は暖かい季節だというのに、だ


だからこそ、この震えが、気温の影響ではなく恐怖によるものだと理解できた



彼女の完璧な笑顔には、喜怒哀楽、全ての感情が読み取れない


どの感情も感じ取る事ができない


唯一、感じ取れるものと言えば、それは感情ではなく


彼女の美豹によって醸し出されている、気品くらいだ



転校初日に見た、あの無表情よりも


今、目の前で自分たちに向けられている、完璧な笑顔の方が、数段も増した恐怖を感じた



〝完璧な笑顔ほど怖いものは無い〟


と、心にその思いが絡み付いて、離れなかった



綾瀬実栗のその笑みに


何の感情も感じ取れない事には気付かず


寧ろ、吃った事を馬鹿にされなかった事に、嬉しさと安堵の表情を浮かべた未來は


緊張が解れ、一気に綾瀬実栗へ話しかけた
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