全てが終わりを告げる時
『っ……ひどい……』


手で口元を覆えば、我慢しきれずに零れ落ちた涙が手を伝った



少しの間、愕然と、呆然と。 その場に立ち尽くしていた


動くことができず、その光景から目を逸らすこともできず


時間が止まってしまったような感覚に陥る



けれどそれは本当に、ただの感覚でしかなかった



私と、そしてこの悪夢のような───悪夢であってほしいと願いたくなるような光景を、取り巻いていた空気が───動いた


私の耳元を、一陣の風が吹き抜けた


遠くで聞こえる、多くの人間たちの悲鳴を乗せて……



そして気付く


全てを───世界を支配するその〝時〟は、この悲惨な現状にも、凄惨な光景にも動じることなどなく、

ただひたすらに、残酷に、刻一刻と───自身のそれを刻んでいるのだ、と



『……っ、行かな、ければ……』


悲鳴の聞こえてきた方角へと、私は走り出した



もうすぐ、世界が変わる


お父様とお母様が、世界を変えてくれる


だから、向かう先に、どんな残酷な光景が待っていようとも、行かなければ


命を懸けてまで、世界を守ろうとしているお父様とお母様を、最後の最後まで見送るために


二人の姿を、決して忘れることがないように


しっかりと、目に焼き付けるために───
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