全てが終わりを告げる時
『さあ、命乞いでもするか?』


壇上の男が不敵に笑いながら問う


細められたその目は……人間ではなく、自分よりも下位の存在を見ているようで



下唇を噛み締め、俯く


『ふざ、けるな……っ』


私が憎しみと怒りを露にし、そう呟いたその時───



『命乞いなど、致しません』


良く通るお父様の声が、広場中に響き渡った


我に返り顔を上げれば、柱に縛り付けられたお父様とお母様は……


堂々と、真っ直ぐに───壇上の男を見つめていた



『命乞いなど致しませんし、あなたがたを憎んだり、恨んだりも致しません

ですからどうぞ、私達を処刑して下さい』


強い光を宿した瞳で、お母様が言う


『なっ、何なんだ貴様らは!

死亡志願者か!?』


先程とは逆に、これでもかというほど目を見開き、狼狽えながら男が叫ぶ


何の罪もなく殺められるにも関わらず、潔くそれを受け入れる姿は、何も知らぬ傍から見れば、そう見えてしまうのだろう


しかし、違う


そんなに単純なことではない


誰よりも命を重く、深く考えていたお父様とお母様


潔く捨てるなど、するわけがない


どれだけの覚悟が必要なのか、私には分からず、想像することすらできない


けれど、それはとてつもなく、辛く、苦しく、悲しい選択だったに違いない


そう思うと、胸が叫びたくなるほどに締め付けられた
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