全てが終わりを告げる時
転校生はゆっくりと、教壇の前まで進んでくると


「皆に自己紹介を」


という担任教師の言葉に静かに頷き、こちらへ体を向けた


肩までの漆黒の髪に


少し吊りあがり気味で大きな、同じく漆黒の瞳


華奢な体つきで


肌は雪のように白く、真っ赤な唇がよく映えている


世間一般的に見て〝美少女〟の部類なのだろう


教室内の誰もが息を呑み、その美豹に目を見開いた


普段あまり驚かない私も、その時ばかりは目を見張った


しかし、私が驚いた理由は、その美豹ではない


彼女の表情だ


普通の転校生ならば、初対面の人間が、目の前に多く存在し、緊張で顔が引き攣っているか


これからの新しい生活に、期待で胸を膨らませ、満面の笑みか、だろう


しかし彼女は、そのどちらでもない


彼女の表情は〝無〟なのだ


喜びも、怒りも、哀しみも、楽しささえも感じさせない、全くの無表情


その何も読み取れない表情に、冷や汗が流れ、彼女に対して恐怖の感情を抱いた


こちらを向いていた彼女は、教室内の人間を一通り見渡した後、ゆっくりと言葉を発した


「……綾瀬実栗です。よろしくお願いします」


無機質な声だった


美豹に見蕩れていた周りの生徒達も、その声に、はっと我に返った
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