全てが終わりを告げる時
近くにあった紙に、ペンで〝柚希〟と書く


『柚子の柚に、希望の希。

今は柚子の花が見ごろでね、白く小さな花が咲き誇っているんだ。

ほら、庭に咲いているあれだよ』


そう言って指さした窓の外にあるのは、白い花を身に纏った、一本の柚子の木



『僕の誕生花でね、僕が生まれた時、病院から贈られたんだ』


綺麗だろう?と笑えば、柚希も満面の笑みで頷く



『柚子の花言葉の一つに、〝汚れなき人〟というのがある。

残念ながら、君は人ではないけれど、この名前を持った時点で、君は高橋から解放されるんだ』


『解放、される……』


そう呟いた彼───柚希は、柚希、柚希……と、心に刻み込むように何度も唱えた



『……君が呪った人間を、忘れろとは言わない。

ただ、過去を悔やんでもしょうがないし、過去を抱え込んだままでは、前に進むこともできないよ。

だから毎年、一度だけでも、その人たちのことを思い出してあげて。

それで、いいんだよ』


『───うん』



それから暫くして、帰ってきた両親に全てを話した


柚希が僕に憑くと言った時、二人は驚いて、すぐに反対したけれど、

僕は決して諦めず、そしてとうとう、二人が折れた



『これからよろしく、柚希』


『よろしくね、慎也』


顔を見合わせて笑い合うと、僕らは夢の世界へと落ちていった



……この時の僕は、まだ知らなかった


幼い子どもの約束は、無邪気で、浅はかで、そして時に恐ろしいということを…………
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