相合傘短編
うそつき彼氏の特等席
放課後、土砂降りの雨に私はこっそり溜息をついた。
梅雨でもないのに毎日のように雨が降り、私の苛立ちは募って行き、もう少しで誰かに八つ当たりしてしまいそうな程だ。
でも、雨が降ると嬉しいことも一つだけある。
「あっ、いたいた。今日も傘いーれてっ」
それは、大好きな幼馴染の彼と相合傘をできること。
いつものように私は傘の右側に行き、彼は左側に入って傘を持つ。
これが昔からのポジション。
彼は小さい頃からよくーーというか、毎回私の傘に入ってくる。
「うわぁ…。思ったより雨強いね」
「そうね…。って、授業中もうるさいくらい雨の音鳴ってたじゃないの。まさか、また寝てたの?」
「いやぁ、えへへへ…」
「笑ってごまかすな」
そういって私は彼の頬を引っ張る。思ったより柔らかい。
「もう、いひゃいからひっぱらないでよぉー」
そう言って彼が身を捩った時見えた彼の肩は、傘に入りきらなくてびしょ濡れになっていた。
「あんた肩びしょ濡れじゃない。もういい加減自分で傘持って来たら?いつか風邪引くよ」
「俺が入りたくて入ってるからいいのー。風邪引いたら引いたでその時だし」
“俺が入りたくて入ってるから”
その言葉を、前も聞いた気がする。
そういえば、小学生の時の彼は案外真面目で傘なんて忘れたことがなく、自分も傘をさしているのにそれをわざわざ閉じて私の傘に入ってきていた。
なんで今まで忘れていたんだろう。
「ねぇ、」
「ん?なに?」
「あんたさ、傘、もってるでしょ」
「えっ?」
彼は一瞬驚いた後、ははっと諦めたように笑った。
「やっぱり、敵わないなぁ」
「え?」
「傘、持ってるよ。今日は予報でも土砂降りだって言ってたし。いや、まぁ毎日鞄に持ってるんだけど。てか、もし傘に入れてもらえなかったら大惨事だからね」
主に靴と鞄の中身が、と彼は笑った。
前に傘を持ってこない理由を『朝に雨降ってないのにそこまで気がまわるわけないじゃん』と言っていたが、あながち嘘でもないみたいだ。
『気がまわるわけない』から毎日鞄に入れているのだろう。
傘を持ってきているか持ってきていないか、というところが決定的に違うけど。
「で、律儀に毎日持ってきてるのに肩濡らしてまで私の傘に入る理由は?」
「え、ここまでいってまだわからないの?!察してよ!いや言うけど!」
どっちだよ。
まあ言ってくれるならそれに越したことはない。
なぜって、私は“無神経”と言われるくらい人の気持ちを察するのが苦手だからだ。
彼は一呼吸おいて口を開いた。最近はめっきり見なくなった彼の真面目な表情に少しだけドキドキする。
いつの間にこんなにかっこよくなってたんだろう。なぜかちょっと悔しい。
「ずっと前から好きでした。これからも、俺とずっと一緒にいてください」
慣れない敬語を使ったその言葉が私の心に響いた。
彼が私にそんなことを言うなんて、罰ゲームか何か?とも一瞬思ったけど、表情を見てわかる。
これは本気なんだ。
すこし驚きはしたけど、その言葉に対しての答えなんて、もうとっくの前から決まっている。
…恥ずかしいから、素直にはなれないけど。
「私、好きじゃない人を傘に入れたりしないから。…これからも、私の傘の左半分は君の特等席、だよ」
伝わったかな?なんて疑問は持つ方が馬鹿らしい。
彼は傘を持つのも忘れて私に思いっきり抱きついた。
傘をささないと大惨事になるんじゃなかったのか、と思いながら私は彼の背中に手をまわす。
彼の顔は見えないけど、きっと、幸せな時に見せる満面の笑みを浮かべていることだろう。
梅雨でもないのに毎日のように雨が降り、私の苛立ちは募って行き、もう少しで誰かに八つ当たりしてしまいそうな程だ。
でも、雨が降ると嬉しいことも一つだけある。
「あっ、いたいた。今日も傘いーれてっ」
それは、大好きな幼馴染の彼と相合傘をできること。
いつものように私は傘の右側に行き、彼は左側に入って傘を持つ。
これが昔からのポジション。
彼は小さい頃からよくーーというか、毎回私の傘に入ってくる。
「うわぁ…。思ったより雨強いね」
「そうね…。って、授業中もうるさいくらい雨の音鳴ってたじゃないの。まさか、また寝てたの?」
「いやぁ、えへへへ…」
「笑ってごまかすな」
そういって私は彼の頬を引っ張る。思ったより柔らかい。
「もう、いひゃいからひっぱらないでよぉー」
そう言って彼が身を捩った時見えた彼の肩は、傘に入りきらなくてびしょ濡れになっていた。
「あんた肩びしょ濡れじゃない。もういい加減自分で傘持って来たら?いつか風邪引くよ」
「俺が入りたくて入ってるからいいのー。風邪引いたら引いたでその時だし」
“俺が入りたくて入ってるから”
その言葉を、前も聞いた気がする。
そういえば、小学生の時の彼は案外真面目で傘なんて忘れたことがなく、自分も傘をさしているのにそれをわざわざ閉じて私の傘に入ってきていた。
なんで今まで忘れていたんだろう。
「ねぇ、」
「ん?なに?」
「あんたさ、傘、もってるでしょ」
「えっ?」
彼は一瞬驚いた後、ははっと諦めたように笑った。
「やっぱり、敵わないなぁ」
「え?」
「傘、持ってるよ。今日は予報でも土砂降りだって言ってたし。いや、まぁ毎日鞄に持ってるんだけど。てか、もし傘に入れてもらえなかったら大惨事だからね」
主に靴と鞄の中身が、と彼は笑った。
前に傘を持ってこない理由を『朝に雨降ってないのにそこまで気がまわるわけないじゃん』と言っていたが、あながち嘘でもないみたいだ。
『気がまわるわけない』から毎日鞄に入れているのだろう。
傘を持ってきているか持ってきていないか、というところが決定的に違うけど。
「で、律儀に毎日持ってきてるのに肩濡らしてまで私の傘に入る理由は?」
「え、ここまでいってまだわからないの?!察してよ!いや言うけど!」
どっちだよ。
まあ言ってくれるならそれに越したことはない。
なぜって、私は“無神経”と言われるくらい人の気持ちを察するのが苦手だからだ。
彼は一呼吸おいて口を開いた。最近はめっきり見なくなった彼の真面目な表情に少しだけドキドキする。
いつの間にこんなにかっこよくなってたんだろう。なぜかちょっと悔しい。
「ずっと前から好きでした。これからも、俺とずっと一緒にいてください」
慣れない敬語を使ったその言葉が私の心に響いた。
彼が私にそんなことを言うなんて、罰ゲームか何か?とも一瞬思ったけど、表情を見てわかる。
これは本気なんだ。
すこし驚きはしたけど、その言葉に対しての答えなんて、もうとっくの前から決まっている。
…恥ずかしいから、素直にはなれないけど。
「私、好きじゃない人を傘に入れたりしないから。…これからも、私の傘の左半分は君の特等席、だよ」
伝わったかな?なんて疑問は持つ方が馬鹿らしい。
彼は傘を持つのも忘れて私に思いっきり抱きついた。
傘をささないと大惨事になるんじゃなかったのか、と思いながら私は彼の背中に手をまわす。
彼の顔は見えないけど、きっと、幸せな時に見せる満面の笑みを浮かべていることだろう。
< 1 / 3 >