あの時手が伸ばせたなら。
部活は人数点呼から始まる。


部長さんがフルートパートから呼んでいき、呼ばれたパートのパートリーダーは


「全員います」


「・・・が体調不良で休みです」


などと言っていき、部長さんはそれをノートに記入する。


ちなみに今の部長さんは、あたしと同じフルートパートの、石原 小春〔いしはら こはる〕先輩。

じつは小学校の頃から知り合いだった。


小春先輩が小学校の児童会をやったのを見てあたしもやった。


中学校に入って小春先輩の吹くフルートの音色はとても澄んでいて、あたしはその音に一目惚れしてフルートを吹きたいと思った。


中3の小春先輩が部長になったのを見てあたしも部長になった。


そんな憧れの先輩だから高校でもいっしょにフルートが吹けるのがすごく嬉しかったんだ。


小春先輩のフルートはパートで一番上手くて、優しくてリーダーシップもある。


あたしはそんな小春先輩を尊敬していたけど、心の奥底で少しなんでもできるなんてずるいと思っていたかもしれない。


いつの間にか人数点呼は終わり、今日の練習予定を言うところに進んでいた。


「今日の練習は朝練のみになります。なので個人でしっかり音を鳴らしてください。あと、春の定期演奏会の曲も、2・3年生の人はやっとくようにしてください」


「はい!」


春の定期演奏会…そういえばあと1ヶ月くらいしかないんだっけ。


新しい後輩が加わっていろんなことを教えていたら、すっかり忘れていた。


…ちゃんと練習しないとなぁ


あたりまえだけどそう思った。
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