あの時手が伸ばせたなら。
朝練はすぐに終わってしまった。


正直、もっとたくさん吹きたい。


吹かないと、小春先輩が自分から遠のいてしまう気がして悔しい。


もう少し、授業の始まる時間が遅くなればいいのになぁ。


そう思いながら教室に帰る途中、何かが背中にぶつかった。


「いたっ!」


反射的にそう言ってしまうのは癖だ。


体勢を持ち直して後ろを振り向くと、見たことのない制服の2人の男子が焦った顔で立っていた。


1人は結構背の高い人。


もう1人はその人より頭1個分くらい背の低い人。


どちらも髪色が少し明るくて、顔は普通にモテそうだった。


これが彼らの第一印象。


「お、おい、直紀押すなよ!ぶつかっただろうが!」


「……」


「なんとか言えよー!!」


どうやら、2人で押し合いをしていたらあたしにぶつかったらしい。


背の高い方の人が直紀って人に話しかけているけど、そのひとは黙り込んでる。


へんなひと。


「…あの、さっきはごめん…怪我してなかった?」


「あ、いや、あの…全然、へーきだから」


「そっか、ほんとごめん」


「だいじょーぶ、だいじょーぶ」


謝んないまま去っていくのかと思いきや、背が高い人はていねいに謝ってくれた。


普段男子とめったに話さないあたしはだいぶテンパってしまったけど。


案外いいやつじゃん。


そう思っていると、直紀はなぜかいきなり走って逃げていった。


「……って直紀!?待てよ!」


背の高い方は何が起こったのかわかんないといった顔をしている。


そしてぐるりとあたしのほうに顔を向けた。


「ホントにごめんね!じゃっ!」


「あっうん、ばいば…い……?」


なんか二人共おびえてた…?


あたしに怒られると思ったのかな。


やっぱり怖いイメージがあるのかも…。


はぁ、とため息をつきながら歩き始める。


朝からため息をつくなんて…。


そう思うと余計ため息が出そうだった。


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