あの時手が伸ばせたなら。
今日は週に一度のラッキーな日。


授業は5時間で、部活もない日だ。


たまたまバイト先のお店も定休日だった。


部活って好きなんだけど、休みって言われると嬉しい。


家に帰ったらスマホのゲームをしよう。


と、家での計画を立てた。


電車でゆらりゆらりと揺れる。


途中の駅で、おばあさんが入ってきた。


迷わず


「よかったら、どうぞ」


と、笑顔を心がけて言う。


これも癖になってきた。


こうやって誰かの役に立つことは、すごく嬉しいし気持ちがいい。


やっと届くようになったつり革をつかむ。


またガタゴトと揺れる。


電車から見える風景は、ここからしか見えない景色ばっかりで好きだ。


ぼーっと眺めていると、電車が激しく揺れた。


最初の揺れはなんとかこらえたけど、すぐに次の揺れが来たので少しバランスを崩してしまった。


背中に何か当たる。


「あ、ごめん、な…さい……」


「あ………お互い様だし、大丈夫です」


急いで謝ったけど、少し戸惑ってしまった。


だって、目の前にいたのは今日ぶつかってきた男子2人だったから。


「あ、そういえば、名前言ってなかった。俺は斉藤 雅人〔さいとう まさと〕。こいつは、隅田 直紀〔すみだ なおき〕あ、2年生な」


そう言い終わると、直紀は雅人を軽く睨み、雅人はあっという顔をしたあと焦ってごめんと、口パクで言った。


不思議に思いながらも、それは流すことにした。


よくしゃべるのが雅人で、おとなしいのが直紀。


頭の中にインプット。


それより、相手が言ったんならあたしも自己紹介しなきゃだよね。


「あ、えと、あたしは高森 美月!あたしも2年生です!…よろしく!」


「こちらこそ…ほら、直紀」


雅人はにっこりしてうなずいてくれた。


でも直紀はさっきから伏せたままで動こうとしない。


どうしたんだろ。


「あの、体調悪いんだったら、無理にあいさつさせなくても…」


「あ、体調悪いわけじゃないから、大丈夫。…ほら、直紀!せめてさっきのこと謝らないと菓子パンおごらねぇぞ」


最後の雅人の一言で直紀は渋々起き上がった。


「…さっきは、ごめん。よろしく」


「高森、ごめんな。そういえば、俺たち昨日にひっこしてきたんだ。今日は学校の下見でさ。まだ友達いないから、仲良くしてくれたら嬉しいな」


え、きのう!?


どうりで見たことない顔だと思った。


ていうか、突然の友達申し込みですか


男友達なんて作ったことないけど…


まあ、いいや。


「うん。いいよ」


「それと、ライン交換してー」


おおー、ライン!


あたしは2年目のスマホを出してアプリを開いた。



「…よし、ありがと。こっちでの友達1人目!」


雅人は嬉しそうに笑った。


直紀は相変わらず無口で伏せてるけど。





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