あの時手が伸ばせたなら。
雅人と直紀はあたしの降りる駅の1つ前で降りた。


「じゃ、バイバイ」


「あ、うん。バイバイ」


結局別れるまで緊張していて、一回一回の返事が変な風になってしまった。


あんなににぎやかだった電車の中が一気に静かになった。


こんなところで大声で話してたと思うと恥ずかしくなる。


ぼーっと顔が熱くなり、視界がぼやける。


[○○駅〜○○駅〜。出口は左側です…]


ドアが開き、焦ってホームに出る。


改札を出ると自転車で家まで行かなければいけない。


毎日のようにそれが続くので、電車を降りるといつもテンションがだだ下がり。


バスでも行き来できるんだけど、少ないうちの財産を少しでも残しておくため、使わないようにしている。


はぁ、とため息をついてサドルにまたがった。


そしてペダルを漕ぎだす。


今日は比較的暖かい風が吹いている。


1週間ぶりの、夏と同じくらいの気温。


素早く走り抜けるあたしを、その風が包み込む。


あたしはこの感じがすごく好き。


なんか落ち着いて、あったかい気持ちになるから。


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