君を愛さずには いられない
ε.流される運命
局長室に近づくにつれ確信できた。

ユリがいる。

彼女愛用のフレグランスが鼻についた。

室内はその香りでむせかえるほどだろう。

俺は胸の奥にチリチリとしたものを感じた。

まだ吹っ切れていなかった。

今朝局長からのメールで知った。

LA支社は来期にカナダ支部を展開することと

ユリと鏑木が来日することを。

彼らが俺に何をさせようとしているか

ピンときた。

早晩LAに飛んで来いと言われるに決まっている。

俺は未だにガキだ。

彼女に未練がある自分にホトホト呆れた。

このままではバカをさらすだけだ。

いい加減大人になるべきだ。

局長室のドアの前で気を引き締めた。

コンコンとドアをノックした。

「入れ。」

局長の静かな声がした。

「失礼します。」

案の定二人がいた。

俺はユリへの思慕に浸る前に

違和感の方が強かった。

何だ?

鏑木の様子が変だった。

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