君を愛さずには いられない
パレット・ルビ・カンパニーは傘下と言っても子会社ではなく

グローバル推進室が海外相手であるのに対し

パレットは国内専門なだけだ。

同行させる予定の河村にどう切り出すかを考えた。

俺には補佐役である彼女が必要だ。

「ところで、連れていく部下は河村志穂だろ?」

ほとんど確信めいた局長のトーンに俺は驚いた。

「彼女のことを少し調べたんだがね。」

「調べた?」

「ご両親はカナダ在住だ。母親が仏人で仏語は堪能、英語もネイティブだ。他に伊語も話す。」

「えっ!?」

局長は俺に構わず話し続けた。

「ハーフだがそれっぽくないのが彼女の強みだ。瞳の色は誤魔化せないが。」

「普通に黒ですが!?」

「グリーンだ。カラーを入れているんだろう。」

「えっ!?」

俺は気づかなかった。

毎日接しているのにまったく気づかなかった。

語学堪能なのになぜパレットで働いているのだろう。

俺はそっちの方が不思議に思った。

「それから、父親がセキュリティ系のウェブ会社の経営者だ。」

「えっ!?」

「これは私の考えだが、おそらく彼女は父親を引き継ぐと思う。」

俺は鳥肌が立った。

「君の持っているすべてを彼女に伝授したまえ。」

「それってつまりどういうことですか?」

「ずばり高岡が君を育てたように君が河村を育てればいい。」

「俺には無理です。」

「何を言っとる。」

「彼女の真似などできません。」

「何も真似しろとは言っとらん。君流にやればいい。」

「俺流に?」

「そうだ。」

「2年あれば充分だ。」

俺は局長室をあとにした。

河村はまだミーティング中だろうか。

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