cherish【チェリッシュ〜恋のライバルは男!?〜】
まだ立ち上がらない紺野君の隣に行き、私もしゃがみ込む。
「飛び込みなんてするわけないじゃん。
そんなの、お父さんとお母さんに怒られちゃうよ。」
「だってっ!
…1人でずっと電車見てるなんて言われたら怖いやんけっ!」
その必死な様子を見て、どれだけ心配をかけたのかと申し訳なく思う気持ちに反して、嬉しい気持ちが勝ってしまい、思わず頬が緩む。
「心配かけてごめんね。
電車見てたのはね…
どこか遠くに行きたかったの。この街じゃないどこかへ」
ホームのベンチに座りながら、次々に流れてくる特急列車を見つめていた。
このままふらっと乗り込めたら、と考えているうちに時間が過ぎていたんだ。
そこで紺野君の顔が少し曇った。
「どないしよ。」
「え?」
「行かんといてって言いたいのに…
約束使われへん。」
「約束?」
「賭けてたやろ?
勝った方が何でも言う事聞いてもらえるって。」
「あ、決勝…」
そうだ、今日だったんだ。
「負けてん。
せやから、俺の負け。
やから…心が止めるなって言うなら、俺は止められへん。」
情けないな、と呟いて紺野君が苦笑する。
そこで思わず吹き出した。
「な、何がおもろいねん?!」
「だって…
また自己完結するんだもん。
私まだそんな決心してないのに。」
本当に、誰も知らない場所に行けるなんて思ってない。
ただの、現実逃避。
「それと、紺野君が勝った時はデートだけだったよ?
何でも言う事聞くなんて言ってない。」
いつの間にか内容の変わっていた賭けにケチをつける。
「えー、そうやっけ?
俺めっちゃ何してもらおうか考えてたのに」
わざと残念そうに肩を落とす様子を見て、もう一度笑った。