cherish【チェリッシュ〜恋のライバルは男!?〜】
無理やり体を動かし、クローゼットから浴衣を引っ張り出す。


紺色の生地をそっと撫でた。


‐‐‐‐‐‐‐‐

『ママー、これが着たい!』


小さい頃、お母さんの服が入ったタンスから浴衣を見つけた私は、これが着たいとねだった。


『心には大きいわよ。
自分の持ってるでしょう?』


『やだやだっ!
これがいいのー!』


だって、こころのは子どもっぽいんだもん!


なんて、生意気なわがままを言う私をなだめるように、お母さんは言った。


『じゃあ、心が大きくなったらね。
そしたら、ママの浴衣着せてあげるね。』


『本当!?』


『うん。約束。』


そう言って、指切りげんまんをしてくれた。


『…この浴衣を着て、心は誰と歩くのかな。』


目を細めながら、私を見つめるお母さんの言葉が不思議で、私はきょとんとしていた。


『みんなでお祭り行くんだよ?

パパとママとお兄ちゃん!』


幼い私の言葉に、お母さんがクスクス笑った。


「そうね。
みんなで行きましょうね。」


そして、ぎゅっと抱き締めてくれた。


『ママ大好き!』



‐‐‐‐‐‐‐‐‐


今なら、あの時のお母さんの言葉の意味がわかる。


私がこの浴衣を着る頃に、どんな人を好きになっているのか。


お母さんは私の未来に思いをはせていたんだ。


お母さん‐…


私、好きな人がいるの。


この浴衣を着て、その人と花火大会やお祭りに行った事もあるよ。


でも、今年は一緒じゃないの。


その人と、同じくらい素敵な人と歩くんだよ。


お母さん、私どうしたらいいかな?


ねぇ、お母さん…


会って、話を聞いてほしいよ。







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