cherish【チェリッシュ〜恋のライバルは男!?〜】
「忘れ物って…それ?」
明日香が眉をひそめて、私の抱えているお弁当を見つめる。
「そうですけど、何か?」
「まさか、ミサキ様の分は無いでしょうね!?」
どう見ても一人分しか持ってないのに、彼女は不安らしい。
・
彼女の頭の中はミサキ様でいっぱいだから、仕方ない。
「ねぇどうなのよ?!」
この橘明日香は『ミサキ会』なるミサキちゃんのファンクラブの会長。
そのファンクラブの会員は、敬意を表す為と抜け駆け禁止の観点から、ミサキちゃんの事を『様』づけで呼ばなくてはいけないという暗黙の掟があるらしい。
そしてそんな『ミサキ様』の周りによく現れる私は、彼女達の間では悪なのだ。
ことあるごとに嫌味を言われたり、こんな風に絡まれる。
紺野君のファンにも免疫があるのはこのせいだ。
アホくさい。
「だったら何なんですか?」
ハッキリ言って今の私は機嫌が悪い。
何でいつもいつも、ミサキちゃんのファンに絡まれなくちゃいけないのよ!
「な…っ、そんなの許されないわ!私たちに無断でそんなっ…渡しなさい!」
とヒステリックに声を上げると同時に手を伸ばしてきたので、とっさにガードした。
本当にこの人達の思考回路が全く理解出来ない。
「やだっ!」
頭を縮め、腕に力を入れる。
私の頑なな態度にムキになったのか、向こうも本気を出してくる。
しかも3人がかりで。
全く、こうゆう卑怯なところが大嫌いなのよ。
「やめて…ってば!」
‐‐ガツ!
っという音と共に、肘に痛みが走った。
「「痛!!」」
私達の声がハモる。
振り向くと、明日香が顎の辺りを押さえている。
涙目を浮かべながら顔を真っ赤にさせている。
どうやら私の肘が彼女の顎にクリーンヒットしたらしい。