◆Woman blues◆
秋人の時のように、決定的瞬間を目撃してしまったら、私は一体どうするのだろう。

太一との間に起こった今までの出来事が、たちどころに胸に浮かぶ。

私に向けるフワリとした温かい彼の笑顔も。

「麻美」

私は立ち上がろうとした麻美の手首を掴んだ。

「麻美、ごめん。やっぱり私、尾行はできない」

「夢輝……」

「太一に会って直接きくよ」

麻美は私を少しだけ見つめていたけれど、すぐに頷いた。

「行きなさい。頑張って」

しっかり頷いて、私は身を翻した。

店を出て思いきり走ると、太一は大通りの交差点の手前で腕時計を見ていた。

「太一!」

思いきり呼んだ私の声に、太一が振り返る。

「太一っ」

近づくにつれて、太一の驚いた顔がはっきりと見えてきた。

「夢輝さん……」

明らかに戸惑いの表情で、太一は私を見つめた。

その顔が、私の胸を引っ掻く。

痛い。痛いけれど問わなきゃならない。

精一杯息を整えて、私は太一を真正面から見上げた。

「太一、どこにいくの?」

「……夢輝さん……」
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