◆Woman blues◆
気まずそうな太一の視線に挫けそうになる。

「……聞いちゃダメかな」

「……ちょっと、理由があって」

「……うん」

「……心配かけたくなくて」

太一がそこまで言った時、一台の高級車が私達の脇の路肩に停車した。

その車を見て、更に太一の表情が強ばる。

車のドアはすぐに開いた。

「太一」

表情が強張ったのは、太一だけじゃなかった。

だって、派手なスポーツカーから姿を現した女性に、私は見覚えがあったんだもの。

「太一、行こう。遅れちゃうわ」

ああ、この背の高いスレンダー美女を、私は知っている。

あの日、秋人をつけたあの日、東京駅で秋人と抱き合ってキスをした女性だ。

「……太一?」

訝しげな顔をした彼女が、太一の視線を追って私を見た。

それから信じられない言葉を発して、彼女は私と太一を交互に見た。

「あなたを知ってるわ。確か……秋人のスマホに写ってた……そうでしょ?」

嫌だ、こんなのは。

太一に知られてしまう。

私から秋人を奪ったのがこの女性だと。

そして太一は、その彼女と会う約束をしていたなんて。

それも、私に黙って。
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