◆Woman blues◆
その時後ろから腕を掴まれ、私はビクッとして立ち止まった。

太一だった。

私の前に回り込み、目の高さを合わせるように屈む太一を私は表情の無い顔で見つめた。

「これ以上惨めにしないで」

「夢輝さん、話を聞いてください」

パンッと太一の腕を振り払うと、私は歩き出した。

「もう二度と私に触らないで」

「夢輝さん!」

この期に及んで何故追いかけてくるんだろう。

もういいじゃん。

何かが、私の中でパツンと音をたてて弾けたような感覚。

涙も出ないのは二度目だから?

それとも、私よりもリアナさんの方が太一とお似合いだから?

再び太一が私に触れた。

「触らないで」

「話を聞いてくだ」

「話すことなんか無い。彼女とお見合いしたんでしょ?浮気してるんでしょ?それとも私が浮気相手?おかしいとは思ってたよ。七歳も年下のイケメン次期社長が、私なんかと」

涙の代わりに首をもたげたのは、自己嫌悪だった。

自分のバカさ加減に呆れ、一瞬でも太一とならこの先も幸せに生きていけると思った自分が、浅はかで吐き気がした。

バカな私。

己を知れ。

身の程をわきまえろ。
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