◆Woman blues◆
vol.5

心に仮面を

◆◆◆◆◆◆◆◆

「柴崎、本気で言ってるのか」

「はい」

ミーティングルームのテーブルに浅く腰を掛け、課長は苦々しい顔で私を見つめてから溜め息をついた。

「はい。この度の『孫から祖母へ』の指輪が完成しましたら退職します。引き継ぐ仕事もないですし、後の日数は有給消化を考えてます」

「辞めてどうするんだ」

結婚します!

とか言いたいが、当然そんな予定はない。

「靴の勉強をしようと思っています。デザイン学校の旧友が靴のデザインを手掛けていますので、それを手伝いながら」

「そうか……」

課長は私の退職届を両手に持ち、シゲシゲと見つめた。

「みんなが寂しがるぞ」

「あ、課長。皆には私が直接伝えますから」

「……分かった」

ここからが、メインだ。

私は深呼吸した後、課長にこう切り出した。

「課長、次期社長には私の退職を言わないでください」

課長がギクリとした顔で私を見た。

「……聞いてたのか」

それから、

「けど、黙ってるわけにはいかないだろう」

「折を見て自分で言います。もし課長が喋っちゃったら、鮎川君が次期社長だってこと、今すぐ皆にバラしますよ」
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