◆Woman blues◆
私は少し笑いながら、麻美の言葉を遮った。

「ハッキリしてるよ、十分！」

私は居酒屋『えん』の店内を見渡しながら続けた。

「大学時代の友人じゃなかった。お洒落なスーツに身を包んで会おうとしたのは、『SLCF』の社長令嬢だったよ。もっと言うなら、秋人が私から心変わりした女性。年齢は25歳！
あ、マナト君、生ビールお代わり！」

私は通りかかった店員のマナト君を呼び止め、空いたジョッキを手渡しながらニッコリ笑った。

「はい、夢輝さん。今日も綺麗ですね」

「ありがとう！男運がないけどな！」

マナト君がギョッとしたように目を見開いてからきごちなく笑った。

「大丈夫ですよ、夢輝さんなら」

「ありがと」

私はマナト君に微笑むと麻美に向き直った。

「……引っ越そうかな」

貯金ならそれなりにあるし、貯めていた結婚資金もある。

「彼の言い訳聞いてからにしたら？」

「嫌！絶対に嫌！」

あんなに優しくて素敵だった太一が私にウソをついて 、『SLCF』の社長令嬢……リアナさんと待ち合わせしていた事実。

「私、もう太一に向き合いたくないの。好きな気持ちも封印する」

「鉄の仮面でも被る気？」

「まあ言えばそうだね。もう、本心も素顔も彼には見せたくないよ」

「まあ……あんたの気持ちは分かるけど、よく考えなさい」

気遣うような麻美の眼差しを直視出来なくて、私は眼を伏せると自分の指先を見つめた。
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