◆Woman blues◆
「……離してよ」

「話を聞いてもらえるまでは離さない」

もう、いい加減にしてほしかった。

私は大きく溜め息をつくと、ぞんざいな眼差しを太一に向けた。

「あの状況をどう言い逃れる気?子供っぽく言い訳しないで。私はもう太一と話す気はないから。もう来ないで。会社でも話しかけないで。視界にすら入ってほしくない」

力を込めて太一の腕をほどくと、私は玄関ドアを開けた。

酔いに任せて彼を冷たくはね除け、少しスッキリした。

太一は何も言い返さなかったけど、ドアを閉める時、一瞬見た太一の瞳に思わずズキッと胸が痛んだ。

……なによ。

そんな傷付いた眼をしないでよ。

……被害者は……私なんだから。

◆◆◆◆◆◆

翌日。

太一と出くわしたくなかった私は、早々に出勤した。

案の定、誰も来ていないオフィスは静まり返っていて、まだ太陽の日差しに温められていない空気が気持ちいい。

バッグを置いて給湯室へ入り、コーヒーを入れようとして棚に近付いたその時、

「あなたとこのまま終わる気はない」

「きゃあっ!」

突然、背後から身体を密着させてきた太一に驚き、私は思わず息を飲んだ。

うなじに太一の息がかかり、それから柔らかな感触が肌に押し当てられた。
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