◆Woman blues◆
太一の言葉にカッとして、私は思わず彼を睨んだ。

「よくもまあそんな事が言えるわねっ!太一が私を裏切ったんでしょ!逆ギレしないでよね!子供っぽい真似はやめて!」

「子供なのはそっちだろ!本当に歳上なのか、疑わしい!」

「なんですって?!私が幼稚だって言いたいの?!」

お互いにバリバリと睨み合っていたその時、

「あのー……そーゆー事だったんですかー……」

怜奈ちゃんの遠慮がちな声がして、私と太一は睨み合っていたのにも関わらずギクリとした。

ゆっくりと給湯室の入り口に眼をやると、怜奈ちゃんが眼を見開いてボケッと私達を見ていた。

それから幽霊のような声で、

「これは…幻聴……?そして幻ですか……?それとも歴とした事実で、抱き合ったまま給湯室で罵り合った後、今夜盛り上がるとか……?もう夜のためにプレイが始まってるとか……?」

ああ、終わった……。

太一と私は同時に天井を仰いだ。

◆◆◆◆◆◆

『次期社長の件は、内緒でお願いします』

私は太一のラインの文面を思い返しながら、目の前でニヤニヤしている怜奈ちゃんを見つめた。

給湯室での一件を見られたその日の定時後である。

『夢輝さん、今日、二人で飲みに行きましょう。いい多国籍料理の居酒屋があるんですよぉ』

太一が出ていった後の給湯室で、怜奈ちゃんがニタリと笑った。

多国籍な料理の数々と比例し、店内のディスプレイも国を特定できない、独特の雰囲気を醸し出している。

私は頭上すれすれに垂れ下がっている変な人形を気にしながらも怜奈ちゃんを見つめた。

「やだぁ、夢輝さんったら……なんで言ってくれなかったんですかぁ?」

「あのね怜奈ちゃん、普通は言えないよ」

私は全てを話し終えて、ビールをゴクゴクと飲んだ。
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