◆Woman blues◆
どうしても涙が後から後から溢れてきて、私はそこで言葉に詰まった。

そんな私を見て、箱の中のキラキラと光るそれを、太一が私の薬指にはめた。

「やっぱり凄く似合う。実はとても困っていたんです。だってあなたは素晴らしいジュエリーデザイナーだ。だからどれを選べば良いか分からなくて」

「太一……これって、もしかして」

太一が照れたように頷いた。

「カミーユ・ルイです」

カミーユ・ルイとは、私が最も尊敬しているジュエリーデザイナーだ。

世界的にも有名なジュエリーデザイナーなのに、カミーユ・ルイは世界に店をもたない。

彼の拠点であるフランスにしか店はなく、年に一度だけ、彼の大切な奥様であるローレンスの誕生日にだけ、各国でジュエリーを販売するのだ。

そんなカミーユ・ルイの作品を、一体どうやって……。

太一は私の手を握ったまま、フワリと笑った。

「カミーユ・ルイは、僕の父の古い友人なんです。この間来日し、父と夕食をする予定だときいて、僕も同席させてもらいました。あなたの話をしたらカミーユが言ったんです。『そんな素晴らしい女性と結婚したいなら、僕のデザインした指輪じゃないとダメだろ?』って」

「お父さん、カミーユ・ルイと友達なの?」

「トランクひとつでフランスを旅していた父と、カミーユ・ルイは意気投合し、暫くルームシェアしてたらしいです。勿論、その時のカミーユは、まるで無名だったらしいですけど」

驚いて声の出ない私に、太一は続けた。

「気に入ってもらえましたか?」
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