◆Woman blues◆
つくづく優しい人なんだろうと思った。

二人もろともベッドから転がり落ちたというのに、彼はそれでも出来るだけ私を衝撃から庇ってくれていたから。

抱き合ったまま至近距離で見つめ合ったら、彼がクスクスと笑った。

やっぱり、あの時の彼だ。

部屋のライトの下で見る彼は、更に素敵だった。

綺麗な眉の下の二重の眼はキリッとしているのに、茶色の瞳は大きくてあどけない。

上品な口許も頬のラインも、男らしいのに、甘い雰囲気。

「あ、あの、重ね重ね本当にごめんなさい、あの、私、」

こんな男前に覆い被さった挙げ句に見つめ合うなんて、正気じゃ無理だ。

「夢輝」

「は、はい」

「鼻血止まって良かったね」

最悪だ。

こんな男前に鼻血を見せた上、流血したまま気絶して部屋で介抱されるなんて。

もう、泣きたい。

いや、そういや泣いた。

泣いて……キスをしてしまったような……。

私は呆然として彼を見つめた。

見たところ、二十代後半というところだろうか。

今時の若者という感じで、細身体型。

やだ、どうしよう。

こんな若い子に、私、なんてことを。

なんだっけほら、痴漢の対義語。
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