◆Woman blues◆
「鼻血よりマシ」

「うっ、うわああん!」

「わっ、夢輝さん、ごめん、冗談だよ」

太一はそう言うと、本当にシャツで私の涙を拭いた。

「ごめんね、太一。それから、ありがと」

太一が私の濡れた瞳を覗き込んで柔らかく微笑んだ。

「可愛い人だなぁ、夢輝さんは」

私は涙を手の甲で拭いながら、太一から視線を反らした。

「可愛くないもん、アラフォーだし」

「関係ないよ、そんなの。それに夢輝さんは凄く若く見えるし」

私は少しだけ笑った。

「ありがと」

「あ、この件は『貸し』ですよ」

私はギクリとした。

「貸しって?若く見えるっていう、リップサービスの事?」

太一がニッコリ笑って首を振った。

「違いますよ。……僕とも飲みに行ってください、二人きりで」

思わずドキンとする。

それって……?いやいや、勘違いするな、私。

二人きりでっていう事は深く考えない方がいい。

「うん、借りは必ず返すよ」

「じゃあ、部屋の前まで送ります」

太一はそう言うと私の頭をクシャリと撫でて笑った。
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