◆Woman blues◆
ギクリとして、私は思わず視線を反らした。

「……どこ行くんですか?眼がとても赤い」

静かで艶やかな太一の声はちゃんと聞こえている。

だけど私は返事を返さなかった。

「夢輝さん……泣いてたんですか?」

小さな風が頬を撫でた瞬間、太一が近付いてきて至近距離から私を見下ろした。

大きな茶色い太一の瞳が、心配そうに私を見つめている。

「夢輝さん?」

嫌だ、そんな眼で見ないで。

ギュッと心臓を鷲掴みにされたような痛み。

私は大きく息を吸うと、震える声を必死で抑えながら返事を返した。

「……ちょっとコンビニに」

「遠藤さんに会いに行くんですか?」

切り返すようにそう言った太一の声は相変わらず柔らかくて優しくて、それが逆に私の胸を締め付けた。

ビクンとして反射的に息を飲む私に、太一はもう一度問いかけた。

「彼に会うんですか?」

「太一に関係ないよ」

「夢輝さん」

「太一には分かんないよっ!」

私は身を翻すと駆け出した。

正しい全てのものが、今は辛すぎる。

心臓が破裂しそうになるほど私は走り続けた。

信号で漸く足を止めると、必死で息を整える。

青信号に変わった交差点を、私は隆太のアパートの方向に歩き出した。
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