◆Woman blues◆
「僕ならいますよ」

「きゃああっ!」

誰もいないと思い込んでいた後ろのデスクから急に太一が立ち上がったものだから、私は驚いて悲鳴をあげた。

「はははは!夢輝さん、驚きすぎ」

ビックリするやら恥ずかしいやらで、私はカアッと顔が熱くなり、焦って言い訳をした。

「だ、だって、太一が急に立ち上がるから!もう誰もいないと思ってたし、それで」

その時、急に腕を引かれて、私は太一の固い胸にトンとぶつかった。

何が何だか分からず、思わず眼を見開く。

「え、あ、あの」

「可愛い」

は?

はあっ!?

太一が俯いて、私の頬に唇を寄せた。

触れるか触れないかの、ギリギリのライン。

彼の甘い息が掛かかり、私の心臓は次第にバクバクと荒く脈打ち出した。

「夢輝さん、今から僕の部屋で飲みませんか?明日は休みだし」 

茶色の大きな瞳が私を見つめて甘く誘う。

ダメだ、死ぬ。

この距離と、甘い太一の眼差しに、死ぬ。

いや、ダメだ、死んじゃダメ。

なに硬直してんの、私!

と、と、年上の威厳にかけてここは上手くあしらわなきゃでしょ!

けれど焦れば焦るほどどうしていいか分からず、私はただただ太一の整った顔を見上げた。
< 59 / 143 >

この作品をシェア

pagetop