◆Woman blues◆
◆◆◆◆◆◆◆◆

そして現在。

「いい?!何見ても取り乱すんじゃないわよ」

麻美の言葉に私はゴクリと喉を鳴らした。

「わ、分かってる。彼がゲイだったとしても冷静でいる」

ところが数分後、ゲイであってくれた方が気が楽だったと言わざるを得ない事態が私を襲った。

人波を縫うように駅へと向かっていく秋人に、突然背の高い激細の女性が抱き付いたのだ。

へっ!?

ドキンと胸が鳴った私をよそに、秋人が女性に向き直ると顔を近づけてキスをした。

膝上までのフレアワンピース一枚をサラリと着こなした、遠目にも分かる美人だった。

女性は完全に秋人にもたれ掛かっている。

吸い込まれるように駅に消えていく人々の中、二人だけが動かなかった。

「しっかりしな!」

麻美が私の肩を抱いて、低い声でそう言った。

「……分かってる」

声が震えるのを止める事が出来なかった。

「どうする?!タクシー乗り場に行くみたいだけど……追いかける?!」

「いや、もう十分……」

それから瞬時に仕方がないと思ってしまった。

遠目でもすぐに分かった。

私、彼女に負けてる。

スタイルも、若さも。

呆然とする私に麻美は言い放った。

「こういうことは早く判るに越したことない。
アンタを裏切った彼は人生最大のミスを犯したね。
さあ、もう行こう。私が傍にいるから泣くなり暴れるなり好きになさい。全部私が受け止めてあげるから」

私はそう言ってくれた麻美を見て呟くように問いかけた。

「私が……悪いのかな」

喧騒と光に満ち溢れていた街の風景が、瞬く間に灰色に変わった。

どうしようもなく悲しくて苦しくて、なによりとても惨めだった。
< 6 / 143 >

この作品をシェア

pagetop