◆Woman blues◆
「はい、決まり」

「え」

「だってまだ貸しがあるし」

貸しとは、マンションのエレベーターで秋人と鉢合わせたあの時の事だ。

あの時私をかばい、恋人のふりをしてくれたのがすごく嬉しかったっけ。

私は平静を装いながら、一瞬だけ太一を見てすぐに眼をそらした。

「じゃあ……なにか買いに行こう」

「はい。僕のお勧めのツマミがあるんです!ビールにもワインにも合いますよ」

太一はようやく私から離れたけど、私の胸はうるさいままで、何だか少し悔しかった。
< 60 / 143 >

この作品をシェア

pagetop