◆Woman blues◆
言いながら、太一は私の手の甲に唇を寄せた。

伏せられた瞳。

長い睫毛が頬に影を作り、形のよい唇は柔らかく温かい。

太一の唇は私の中指の付け根で止まり、僅かに開けた唇で挟むようにキスをした。

「僕じゃダメですか」

テレビの音が遠ざかる。

私は太一の顔をひたすら見つめた。

彼の真意を見極めたくて、瞬きをするのも惜しく感じた。

「夢輝さん」

「言ってること、分かってんの?」

恥ずかしいほど声が掠れた。

「私、七歳も歳上なんだよ?」

「わかってます」

「……ごめん、もう帰る」

私は空いている片手で太一の手をそっと自分の手からどけて立ち上がった。

「待ってください。ダメなんですか?返事をください」

私と共に立ち上がろうとした太一の膝がガラスのローテーブルに当たり、尖った音が響く。

探るように太一を見た時、そこに固い表情を見付けて、私は彼の真剣さを理解した。

「答えてよ、夢輝さん」

私はきつく眼を閉じてから本心を告げた。

「太一、私ね、あなたがどう思ってるか分からないけど、イイ女でも凄い人間でもないよ。それから私、秋人と出逢って考えが変わったんだ。彼には振られたけど私、結婚してみたくなったの。子供だって産みたい。好きになった人の子供が。だから、結婚を視野に入れた交際しか求めないの。
タイムリミットはすぐそこまで来てる。だから、遊びとか軽い付き合いは無理なんだよ」
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