◆Woman blues◆
太一が少し悲しげに私を見下ろした。

「僕が軽い気持ちで告白したとでも言いたいんですか」

初めて見る太一の表情に、私はたじろいだ。

「だって太一なら、いくらでも若くて綺麗な女の子が」

「あなたの元婚約者と一緒にされたくない」

いつもは柔らかい太一の瞳が、険を含んでキラリと光った。

「夢輝さんが七歳上だろうが下だろうが、関係ありません」

正気なんだろうか。

「綺麗事言わないでよ。私はあなたより先に老いるのよ?いずれあなたは後悔する」

「あなたを選ばない方が後悔します」

これ以上どう言っていいか分からず、私は途方に暮れた。

太一はテーブルを回ると立ち尽くす私に近付き、優しく引き寄せた。

でもその顔に笑顔はない。

「本気です、僕は。あなたが好きだ」

「……待ってよ、私、恋人に若い女に乗り替えられて婚約破棄されたんだよ?とてもじゃないけど信用できない」

もしも今度捨てられたら、ほんとにもう立ち直れない。

「もう傷付きたくない」

私は太一を腕で押して避けると、スマホを掴んで部屋を飛び出そうとした。

私のその腕を、太一がガシッと掴んだ。

「傷なんか付けない。大切にしかしない」

『タイセツニシカシナイ』
< 64 / 143 >

この作品をシェア

pagetop