◆Woman blues◆
その時、後ろから抱き締められて、私は思わず身を屈めた。

「夢輝、やっぱり俺にはお前しかいない。俺とやり直してくれ」

嫌悪感が身体中に広がって、秋人に対する怒りが生まれる。

「離して」

秋人はゆっくりと腕を解くと私の肩に手を置いた。

その手をさりげなく払いながら、私は秋人に向き直り、しっかりとした口調で告げた。

「秋人、私達はもう終わったんだよ。婚約破棄したのは秋人でしょ?」

秋人は私を虚ろな瞳で見下ろすと、呟くように言った。

「あの女……リアナはモデルだし、うちの会社SLCFの社長令嬢なんだよ。
……俺をその気にさせるだけさせておいて、『婚約破棄したの!?私はそんな重い関係望んでない。親が決めたんだけど、お見合いも控えてるし』なんて言いやがって」

秋人の瞳は血走っていて、私は初めて見る彼の形相に眼を見張った。

「いくら連絡しても会ってもくれない」

憎々しげな秋人の口調は、私の知っている彼じゃないようだ。

いや、一年の交際期間のうちにまだ見ていなかった一面なのか。

「秋人。それは秋人と彼女の問題でしょ?私には関係ない」

私は服を手早く着ると、彼の脇をすり抜けて寝室のドアに手をかけた。

「もう帰って」

「待てよ!あんなガキのどこがいいんだよ?!」

太一の事だ。

私の腕を掴み、秋人は荒っぽく引き寄せた。

私はそれが嫌でたまらず、秋人を睨んだ。
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