◆Woman blues◆
頭では理解している。

けれど私は、あんな現場を見てしまっても秋人と別れたくないのだ。

だってプロポーズもされたし、お互いの両親との顔合わせも済ませている。

なにより、私の37歳という年齢。

子供だって欲しい。

なのにここにきて、この一年が無駄になるなんて怖くて怖くて仕方がない。

これから先、秋人みたいな素敵な男に巡り会う確率なんか低いし、段々歳を取って、シミやシワが増えていく。

男は若い女のがいいに決まってるもん。

だから秋人だって、あんな若い美女に……。

だったら、見て見ぬふりをしていようか。

けれど、別れ話を先延ばしにされた挙げ句に結婚が白紙になるともっとダメージを受ける。

予定通り秋人と結婚したとしても、浮気をされ続ける人生が待っているのかもしれない。

どちらも怖い。

怖くて秋人と話し合いなんて出来ない。

「麻美なら、」

「私なら、さっさと別れる!」

麻美が私の言葉に被せながらピシャリと言ってのけた。

その時、麻美のスマホが鳴った。

「おっと、呼び出しだ。……はい、池田です。斎藤さんね、わかりました」

麻美は産科医だ。

ここから徒歩3分の産婦人科に勤めている。

「行くわ。前置胎盤で入院中の患者が破水したみたい。そろそろだと思ってたんだよね」

だから、酒じゃなくて烏龍茶をジョッキで飲んでたのか。
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