◆Woman blues◆
その時、バタンと玄関ドアの開く音と、太一の大声が響いた。

「夢輝さんっ!!」

ああ、太一、太一。

来てくれたんだ。

私は涙が出そうになるのをこらえながら、声の限り叫んだ。

「太一、助けてっ!!寝室!」

秋人の身体の上から見えた太一の眼は怒りに満ちていて、私は初めて見る太一の表情に眼を見張った。

同じ間取りの太一には寝室の場所がすぐに分かったらしく、

「夢輝を放せっ!」

私に馬乗りになった秋人を、太一は投げ飛ばした。

ガツンと秋人の身体が床と壁にぶつかり、それでも太一は崩れ落ちた秋人の胸ぐらを掴んで、その頬を殴り飛ばした。

「ううっ……」

秋人の身体が派手に倒れる。

なんだか動きが鈍い。

今になって初めて、私は秋人が泥酔しているのに気付いた。

自分自身がお酒を飲んでいたから、酒臭さには気付かなかったのだ。

「夢輝さん、大丈夫ですか」

「うん、大丈夫」

「怖かったでしょう。こっちにおいで」

「太一っ」

私は太一に抱きついて、その身体に頬を寄せた。

「太一、太一」

太一は私を抱き締めて背中をさすると、額にキスをしてから身を離した。

「秋人さん。これ以上夢輝に付きまとわないでいただきたい。今後のあなたの行動次第では夢輝は法的処置も検討することになるでしょう。あなたも社会的地位を失いたくはないんじゃないですか?!」

秋人は、ギュッと眼を閉じて項垂れた。
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