◆Woman blues◆
くすぐったいと思った瞬間、すぐに太一は私から離れてしまった。

「物足りない?」

台詞とは裏腹に、彼の眼は凄く無邪気だった。

見透かされた恥ずかしさと太一の甘い眼差しに、次第にドキドキと心臓が脈打つ。

そんな私を見て、太一はクスリと笑った。

「夢輝さんが化粧室へ立った時に麻美さんも言ってたけど、ほんとあり得ない」

またしても嫌な予感がする。

私はギクリとしながらも太一を見上げた。

「あんなにイイ雰囲気で寝てしまうなんて」
 
麻美ったら喋ってるしっ!! 

「あ、あのね太一」

太一が私を甘く睨んだ。

「あれは……何かのプレイですか?」

「違うよ、あんまり気持ちいいマットレスだから、つい眠くなっちゃって」

焦る私を見て、太一は大袈裟に眼を細めた。

「じゃあ、夢輝さんのベッドだったら?」

彼は更に続けた。

「今日……今からは?」

眼が……というか顔が、素敵すぎる。

可愛いとカッコイイを兼ね備えた太一に、私は魔法にかけられたように硬直した。

これこそ、なんのプレイですか!

早く何か答えなきゃと思った私は咄嗟に、

「そ、そのうち……」

太一はまたしてもポカンとして私を見た。

それから、

「『そのうち』って……フッ」

もう、ダメだ、私。

そのうちって、どのうちなんだ。

太一は私を見てクスクス笑いながら、私の頭をポンポンと優しく叩いた。

「あなたは本当に……いや、なんでもないです。じゃあ……そのうち」

太一はマンションに帰るまで、私を見て笑っていた。
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