◆Woman blues◆
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クリスマス&正月企画の仕事が落ち着きを見せ始めた頃、怜奈ちゃんがコーヒーを淹れながらポツンと言った。

「鮎川さんって、勉強熱心ですよね」

付き合っていることをオフィスの皆には言っていないから、怜奈ちゃんの何気ない発言にも少しドキッとする。

「どうして?」

怜奈ちゃんは手を止めて眉を寄せた。

「だっていつも課長と社内グルグルまわってるし……まあ、一人で手掛けている仕事をまだ持ってないから、一課の中で一番暇といったら、暇でしょうけどね」

「早くうちの会社に慣れたいんだろうね」

本人もそう言ってたし。

私がそう言うと怜奈ちゃんは頷いた。

「前の会社でもモテまくりだったのかな」

さっきよりも大きく鼓動が跳ねる。

「だろうねー」

何の気なしを装う私に怜奈ちゃんは、

「彼女いると思います?」

そう言われると、返す言葉がない。

まさか、私ですなんて言えないし。

「鮎川さんのことを見た女子社員がキャーキャー言ってるみたいですよ。凄くカッコイイのに、物腰も柔らかくて気取ったところがないし、それに三十歳には見えないって」

「そうなんだ」

なんか胸の奥がジリジリする。

太一を素敵だと思わない女性なんて絶対いないと思うから仕方ないけど、そういう話を耳にすると気が気じゃない。

「さっきも課長と出掛けましたから、遭遇した女子社員は仕事どころじゃないでしょうね」

……すっごく不安だ。

さっきまで指輪の試作品会議に出ていた私は、一課の皆と別行動だったから、太一が課長と出掛けてるなんてしらなかった。

「今度こそ親睦会の時に、その辺を詳しく訊いてみます、私!」

怜奈ちゃんはそう言うと、一口コーヒーを飲んで私を見た。

「イケメンって気になりますもんね」

「そうだね」

私は頷きながら、太一の顔を思い浮かべていた。
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