◆Woman blues◆
「頑張ってね」

「あんたもね!」

麻美は私にキラッと光るような視線を投げて、居酒屋『れん』を後にした。

私は麻美の後ろ姿を見ながら、大きく溜め息をついた。

ああ、麻美は綺麗だな。

彼女は私と同じ独身アラフォーで、いわゆるシングルマザーというやつだ。

大変な時期もあったのに、麻美はいつも前向きで輝いている。

じゃあ……私は?

私は……全然ダメだ。

輝いてない。

怖くて恋人に向き合えない、独身アラフォー女。

空になったジョッキを置くと、私は立ち上がった。

店を出るとすぐにスマホが鳴った。

秋人からLINEだ。

『急に出張になった。月曜に帰るよ』

「……どうせあの美女のところでしょ」

私はスマホの画面に向かってそう呟くと踵を返した。

秋人の香りがする、あの家にいたくなかったのだ。

その時、

「きゃあっ!」

「うわあっ!」

「ご、ごめんなさいっ!」

しりもちをついた私は、焦って立ち上がりながら目の前の男性を見上げた。
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