◆Woman blues◆
◆◆◆◆◆◆

「アールをもっと大きくしてみる?」

私が試作品を至近距離から見つめてそう言うと、隆太は頷いた。

「だよな。今回は祖母に贈りたい指輪だからな。若い指じゃない。年月を重ねてきた指にも違和感なくシックリくるアールとなりゃ……CAD室いくぞ」

「そうだね。溝の深さと丸みとの兼ね合いを見たい。CADでアール変えてみて判断しよう」

「オッケ」

指輪の角……どれだけの丸みをキープするか。

お年寄りの指に馴染む指輪を作りたい。

長い人生を歩んできた指も、出来れば美しく見せたい。

私と隆太は細かな箇所を改善すべく、奮闘した。

◆◆◆

二時間後。

「じゃあな、夢。俺お前に振られたばっかで傷心だし、今日はこれで解散な!」

隆太はニヤリと笑うと私に手を振った。

まだ作業があると言う隆太と別れ、工場を後にした時、午後八時だった。

スマホをチェックしようとして、バッグの中を探ったが見当たらない。

CAD室でも工場でもスマホは出さなかった。

てことは、オフィス?デスクの上かなあ。

私は散らかった自分のデスクを思い浮かべた。

書類の間に埋もれてるのかも。

……取りに行こう。

どうせついでだし。
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