◆Woman blues◆
私はひとことそう言うと、小さく何度か頷いた。

「事情は……分かったよ」

「怒ってますか、隠してたこと」

私をゆっくりと引き寄せて、太一は窺うように私の瞳を覗き込んだ。

憂いを含んだ涼しげな眼差しが何とも綺麗で、私は夢中で太一を見つめた。

「……夢輝さん」

太一が私の名を呼んで、斜めに顔を傾けた。

ふわりと風が動き、柔らかな唇の感触が広がる。

全身に電気が走るような感覚。

深くなるキスに呼吸が苦しくなって、私はなかなか唇を離そうとしない太一の胸を押した。

「た、いち」

「……可愛い」

太一が漸く唇を離して、私を深く抱き締めた。

それと同時に、耳元で響く低い声。

「夢輝さん、今日は……逃がす気ないです」

たちまち硬直する私に、太一はフウッと優しく笑った。

「このままスヤスヤ寝ちゃうのもだめです」

胸がフワッとして、力が抜けるような気がした。

ああもうダメだ。

ホント、逃げられそうもない。

私自身がそれを望んでいるから。

私は太一からゆっくり身を起こして、彼の頬に唇を寄せた。

「うん、太一」
< 97 / 143 >

この作品をシェア

pagetop