ただただ君が好きでした
「さてと、断髪式しますか」
カバンからタオルに包まれたハサミを出したマナ先輩は、大切そうにそのハサミを見つめた。
「それ、散髪用のハサミですか!そんなの持ってるんですか?」
「オヤジが小さい頃、このハサミで俺の髪を切ってたんだ。美容師目指してたとかで、結構うまくて」
マナ先輩のお父さんを想像して、ニヤついてしまった。
間違いなくかっこいいよね、マナパパ。
「美容師目指してたなんて、かっこいい!イケメンでしょうね」
「まぁ、お洒落でかっこいいけど、そのせいでダメ男になった」
「ダメ男?」
「浮気して、離婚したっていう最低男」
さらっとそう言ったマナ先輩だけど、ハサミを見つめる瞳を見ているとお父さんへの想いを感じる。
「・・・・・・離婚してたんですか。マナ先輩のうち」
「ああ。その割には真面目に頑張ってるだろ、俺」
「あははは。ほんとにそうですよ!じゃあ、お母さんと暮らしてるんですか?」
大好きだったんだろうな、お父さんのこと。
そう思ってしまう切ない表情で頷いた。
「寂しいですね。その気持ちは私もわかります」
「え?もしかして、オハナんちも?」
驚いたように目を見開いたマナ先輩は、ハサミを机に置いた。
私は首を横に振ってから、深呼吸をした。
息苦しいのは、マナ先輩とこんな密室に二人きりでいるせいだ。