ただただ君が好きでした
「鏡ある?」
「はい」
私はポケットの中にあるゲーセンで取った小さな鏡を出した。
そこに映ったのは、おでこの半分くらいの前髪と、真っ赤な私の顔だった。
「ふふふふ」
「ふふふふ、ぶはっっ!俺、切りすぎ?」
「ちょっとぉ、笑わないでくださいよ。ひどい!」
「嘘だよ、大丈夫!すぐのびるから。ははははは」
ふたりでいっぱい笑って、涙が出るかと思った。
「お父さんもびっくりするんじゃね?」
「でも、帰ってくるの遅いし、気付かないかもしれない」
お父さんは私に興味がないように思う。
「それはないない!こんな前髪になって気付かない父親いないよ。気付かなかったら、俺が殴ってやる」
「あっはははは。そうですよね。さすがにこれは」
言葉の端々から漏れる優しさ。
「ありがとうございます。マナ先輩の腕は確かでしたね」
「だろぉ~?ふふふ。俺はもう変われないからさ。オハナは変われ。まだまだやり直せるから」
時々見せるその寂しい表情のわけを知りたい。
俺はもう変われない、なんてまだ10代のマナ先輩に言わせてしまう過去ってどんなものなの?
「マナ先輩も、これからです。今のままでもいいけど、変わりたいなら私応援します」
「坊主にでもしよっかなぁ、じゃあ」
「それも似合うかもですね」
「頭の形は自信あるからな」
本当に聞きたかったことは聞けないまま、笑い合った。
マナ先輩は、幸せじゃないんですか?
もう一歩、踏み込んでもいいですか。
次に会った時、聞いてもいいですか。
逃げたり、消えたり、しない?