ただただ君が好きでした

「サンキュな」

マナ先輩は、ひざに自分の両肘を置いて、遠くを見ながら言った。

「え、何がですか!私のほうこそ、ありがとうございます」

「いや、今日は家にいたくなかったから。お前の電話に救われたよ」

私よりもきっとずっと辛い思いをしてるんだろうな。

男の人って誰かに弱音を吐いたりするのかな。

「10月に結婚しようと思ってるって言われた」

「今年の?」

マナ先輩は、遠くを見ながら頷いた。

「別にいいんだけどね。いいんだけどさ。俺は俺の生活があるっていうか、乱されたくないなってのもあって。反対とかじゃないんだけど、むしゃくしゃする」

「その気持ち、すごくわかります。これからどう変わるんだろう、とか何を我慢しなきゃいけないんだろうとか、そういうのが不安」

マナ先輩は、私の方を見て優しく笑った。
ここで会ってから、初めて目が合った気がする。

「そうそう。母さんが幸せになることは嬉しいことだし、結婚して金銭的にも楽になるんだろうし、俺だってそれはありがたいけどさ。今ようやく落ち着いてきたこの生活がどう変わっちゃうのかなって不安だよ」

「私達、まだ高校生ですもんね」


早く大人になりたいと思う気持ちと、大人になんかなりたくないと思う気持ちが混ざり合っている。


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